アシスタントになりたくて

 

20代も後半に突入した私はモーレツに焦っていた。

写真の専門学校を卒業して何年かたち、アルバイトをしながらぼんやりと

写真家になりたいと思ってはいるものの、どうしたらいいかわからなかった。

いろいろな人の経歴をみるとほとんどがアシスタントを経てから独立している。

よし、まずはスタジオで働こう、と何社か応募したけどひとつも受からない。

体育会系のきびしいスタジオではまだ面接だというのに声が小さい、もっと

ハキハキ!と注意されて(この業界、向いていないのかも…)とへこむばかり。

フリーカメラマンのアシスタントの条件は車の免許を持っていてスタジオ

経験者というものが多く、どちらもない私は悶々とした日々を送っていた。

 

コマーシャル・フォトという雑誌で年に一度フォトグラファーの特集があり、

たくさんの写真家の作品と連絡先がのっていて、毎年発売を楽しみにしていた。

同年代ですでに活躍している人たちもいる。うらやましい気持ちでめくっていた

その中にカメラマンのМさんをみつけた。お花や、インテリア、京都の写真が

掲載されていて、どの写真もかわいらしくとても好きなテイストだった。

八方ふさがりになっていた私は「アシスタントにしてもらえませんか?」

と募集もしていないのに、いきなり電話をかけたのだった。

 

突然あらわれた弟子になりたいというなぞの人物におどろいていたけれど、

とりあえずお互いの作品を持って一度会いましょうと言ってもらい、暗室に

通ってプリントした渾身のブックと共に待ち合わせ場所の原宿へ向かった。

喫茶店でМさんが見せてくれた仕事の写真やプライベートの作品はどれも

ステキで、アシスタントになって現場をみたい、一緒に働きたいと思った。

「これは自然光にみえるけど、スタジオの中で光をつくって撮影してるんだ」

ずっと知りたかったこと、学校の授業より何倍もおもしろい雑誌の世界に

興奮した私は質問ばかりしていたけど、ひとつずつ丁寧に答えてくれた。

その短い時間で、今まで目の前に重くかかっていた幕が一気にひらいて光が

ぱーっとさしたようだった。未来がほんの少しだけみえた気がした。

 

「まずは見学からはじめてみる?」帰り際に思ってもみなかった言葉が!

「履歴書を持ってきます!」と言うと「名前と連絡先を書いてくれればいいよ」

とМさんは白い紙を指さすのだった。初対面なのに、なんておおらかな。

そして自分のことを信用してもらえたのかなと言ううれしさと、これから

はじまろうとしている新しい展開に、胸がいっぱいになったまま家路についた。

あとで聞いたところによると、同じ時期に男の子からもメールでアシスタント

の問い合わせがあったそうだ。あぁ、いきなり電話してよかった。

 

こうして念願だったアシスタント生活がようやくはじまった。