スイート 青森 ナイト

 

おひとりさまでどこまで行動できるか?

少し前までテレビでよくみた質問だけど、最近はおひとりさま用の席も

あるらしくフツーになりつつある。私の場合、昼間に一人でお店に入る

のはぜんぜん平気だけど、夜となるといっきにハードルがあがる。

友人は旅先で一人でふらりとお店に入ってそこに居合わせた地元の人と

仲良くなるとかで、とてもうらやましい。

それこそ旅の醍醐味じゃないかと思うけど、人見知りにはむずかしい。

 

何年か前に、青森に一人旅した時のこと。

春がはじまったばかりの弘前は、桜もまだつぼみで観光客もまばらだった。

教会や美術館を巡り、最後の目的に津軽三味線を聴くというのがあった。

調べてみると宿泊先の近くの居酒屋で生演奏が気軽にみられるらしい。

大勢でステージを見ながらなら、なんとか大丈夫かもしれない…ついに

初めての一人居酒屋にチャレンジする時がきた。

当日、そわそわして勢いあまって開店と同時にお店にはいってしまう。

平日の夕方5時、他にお客さんはいない。北国の男といった寡黙な大将と

2人きり。カウンターのすみっこに座り、ビールとおつまみを何品か注文した。

店内に張り詰めた空気がながれているのをうっすらと感じる。

 

ちびちびビールを舐め、気まずさをどうにかしようと店内にあった雑誌を

読むでもなく、ひたすらめくっていたその時。

「じゃあ、はじめます」と大将が目の前にイスを持ってきて三味線をかまえた。

(えぇー!?思ってたのとちがうんですけど!)思わぬ展開にあたふたする。

でも、ちゃんと見ないとわるいなぁ…私のためだけに演奏してくれるのだから。

意を決して、至近距離で向かい合う2人。恥ずかしい、とにかく恥ずかしい。

大将の三味線と唄はすばらしかった、日本海の荒波をあらわすかのような力強い音色。

1曲終わるごとに小さく拍手すると、うつむき加減ではにかんだ笑顔をみせてくれた。

せっかくだからと、演奏しているところをひかえめに2〜3枚写真におさめた。

 

そのあと、ほかのお客さんや演奏者の人たちがワイワイとお店に入ってきてまた

すぐに演奏がはじまった。一緒でよかったのに…と心の中で思う。

衝撃的なできごとで、何を食べたのかまったく思いだせない青森の夜だった。