しあわせな150円

 

温泉地で生まれ育ったせいか、ほかの温泉地を訪れるとつい偵察という気分

になりがちだ。お湯の匂いをチェックして、お土産屋さんの店内をぐるっと

ひとまわり、町になじんでいる感じのいい喫茶店はあるかしら、と探す。

どれもそこだけ時が止まっているような、かぎりなく昭和的なものが好み。

今回は「信州の鎌倉」と言われる別所温泉へ偵察に…旅に行ってきた。

 

田んぼの間をのんびり走るローカル線の終点、別所温泉駅はミントグリーン

と白の配色がアイスクリームみたいな、こぢんまりした木造の洋風建築。

何度か塗り直されたようだけど、昭和初期に建てられた姿のままだそう。

改札では女性職員さんが大正ロマンよろしく華やかな袴姿で出迎えてくれる。

 

町を散策してから、さっぱりしようと3つある外湯のうち大師湯へと向かった。

券売機で150円の入浴券を買い、番台に座っているご婦人に渡すと入り方の

マナーを教えられた。これは間違った入り方をしたら怒られそうな雰囲気だ。

暑いと地元の人は家のシャワーで済ませるそうで、湯船は貸し切りだった。

ちょっと熱めのお湯だけどえいっと入ってしまえば、はぁ〜と思わず声がでる。

硫黄のにおいもきつくないし、なんだかまろやかな感じがする。

肩までつかるとあちこち歩いた旅の疲れが、やわらかいお湯にとけた。

 

「いいお湯でした〜」と番台のご婦人に声をかけると、ふっとほっぺたがゆるんで

「そうでしょう、外湯は他にもあるけど私にはここのお湯が1番。もう50年以上

入ってるんだよ。お肌つるっつるになるんだから!」とうれしそうに教えてくれた。

きっと地元の人の自慢の温泉なんだろうな。

 

ぶらっと訪れた旅先で温泉につかり、その土地を身体いっぱいで感じる。

こんなに贅沢でしあわせな150円の使い方、ほかには思いつかない。

 

 

 

 

 

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